由布院盆地の伝説
「いつと聞かれてもわからぬほど遠い昔、由布院盆地は紺碧の水をたたえた湖じやったそうな。村人は、山の斜面に小さな集落をつくって細々と暮らしておった。ある日のこと、由布岳の山の神、宇奈岐日女が剛力の権現を従えて、山のいただきから由布の里をご覧になった。日女は権現をふりむき『この湖の水をなくせば、肥沃な土地があらわれて、里人も豊かに暮らせるであろう。権現お前は力持ちゆえ、岸辺の一部を蹴破って湖の水を干してみよ』とお命じになった。日頃から力自慢の権現であったが、これは大仕事。権現は湖の縁を丹念に調べて、前徳野のあたりの岸が最も薄いことがわかると満身の力を込めて、そこを蹴飛ばしたそうな。湖の水は凄まじい音をだて流れ始め、やがて、湖の底があらわれ今の盆地ができあがったんじゃ。
日女は村人を集めて農耕を教え、その時から由布院は五穀豊穣の地となった。人々は宇奈岐日女神社と蹴裂権現神社を奉り、長く信仰したそうな。主であった竜も、この里を守るために小さな池を残してもらった。それが金鱗湖なんじやと。」 |