ままこ滝
「昔、若い木こりの夫婦が幼い娘と親子三人で滝の近くで楽しく暮らしていた。しかし、ふとした病がもとで妻は帰らぬ人となってしまった。幼い娘を連れて木こりの仕事はできない。日々の生活すらままならなくなった木こりは、やむなく後ぞいの妻を迎えることにした。
娘はやがて6歳になった。後ぞいの妻はこの子が邪魔で、何かにつけてきつくあたっていた。娘が唯一頼りとする父親は、朝早く家を出て夕方遅くにならないと帰らない。娘はこの継母と終日一緒にいるよりほかなかった。
ある昼下がりのこと、野良仕事を終えた母と娘は、滝を真下に眺める岩の上に並んで腰をおろした。いつもは子を憎み、邪険に接する継母が、今日だけはどうしたことか『しらみでもとってやろうか』と娘を膝に引き寄せ髪をとかしはじめた。娘は今までに味わったことのない継母の優しさに接し、無心になって自分の帯と母の帯を結んだりほどいたりして遊んでいた。継母の恐ろしいたくらみをつゆほどにも知らずに… その時、頃合いを見計らった継母が、娘を満身の力で滝へと突き飛ばした。しかし、たまたま二人の帯はしっかりと結ばれていたのである。千尋の滝つぼへともんどりうって落ちていったのは、いたいけな娘とその子を憎み続けた継母の二つの塊であった。
それ以後、人々はこの滝を『まま子滝』と呼ぶようになり、二人の供養のため、滝の近くに二体の観音像をまつった。この観音にちなんで『観音滝』とも呼ばれるようになった。」
須木村史から |